薬膳に興味を持ち出すと、中医学・漢方・東洋医学という言葉を耳にすることが多くなりますよね。
中医学、漢方、東洋医学って何が違うの・・・?
どれも漢方薬を使った医学のこと…?
と、ぼんやりイメージできますが、色々な呼び方にちょっと混乱してしまいますよね。
実は、この3つはすべて違った意味を持っています。
■中医学・・・中国の伝統医学
■漢方・・・中国の伝統医学をもとにした日本の伝統医学
■東洋医学・・・中医学や漢方も含むアジア圏の伝統医学全般
このような違いがありますが、曖昧さを生んでいる原因として2つのポイントがあります。
- 「漢方」という言葉が「漢方薬」という意味で使われることが多く、混乱をまねく。
- 3つの違いを理解するには、それぞれの歴史を知る必要がある。
「漢方」は「漢方薬」をイメージしてしまいますが、日本の伝統医学の名前なのです。
「漢方」=「漢方医学」として考えるとイメージしやすいですね。
また、「日本漢方」と呼ばれることもあります。
そして、それぞれの歴史的な背景を知ること。
この2つのポイントをおさえると「中医学・漢方・東洋医学」の違いがはっきり見えてきますよ。
複雑で曖昧な印象ですが…。
この違いを明確にすることは、薬膳を暮らしに取り入れるうえでもとても大切なことです。
薬の取り扱いに必要な「登録販売者」の試験にも出題されやすいほど重要な部分なんですよ。
歴史から違いを読み解くことで、なんとなくイメージしていた世界がはっきりと見えてくるよ。
もくじ
中医学・漢方医学の歴史
中国で生まれた伝統医学が、受け継がれ誕生した「中医学」
中国の伝統医学が日本へと伝わり改良された「漢方医学」
中国と日本の医学の歴史から、その違いを読み解きます。
中国の医学の歴史
中国の伝統医学は、約4000年前に誕生しました。
そして中医学のルーツとなる「黄帝内経」という書物が生まれたのが約2000年前。
中医学理論の基礎となる書物で、気功や風水などルーツにもなっています。
黄帝内経はiPhoneでいうとOSのような大切なもの…!
中国の医学は、これをスタート地点にして厚みをつけていきました。
多くの医家が関わり、情報も散らばっていた中国の医学。
近代中国では散らばった情報を整理し、再構築されました。
再構築によって、整えられまとまったものが「中医学」とされています。
日本の医学の歴史
日本の医学は、奈良時代に中国から伝わった中国伝統医学から始まります。
江戸時代前期まで、日本で行われる医学はこの中国伝統医学だけです。
そして江戸時代前期、日本に入ってきたのがオランダ医学。
オランダ医学と区別するために、オランダ医学を「蘭方」中国伝統医学を「漢方」と呼びました。
これが「漢方医学」の始まりです。
江戸時代中期になると、漢方医学の中でも「古方派」「後世方派」「折衷派」に分かれます。
「古方派」の人たちは、中医学の哲学や理論「陰陽五行説」などは取り入れずに 「症状と漢方薬を直結させる」ことを重視しました。
中医学の診断法の原点である「傷感論」や「金匱要略」という書物があります。
古方派は、この書物の内容をひとつひとつ検証していきました。
検証した結果と経験を重視しながら、独自に日本化させていったんですね。
ひとつひとつ検証していって、この病気にはこの漢方薬!この症状にはこの漢方薬!って決めていったんだね。
オランダ医学に対して漢方医学は「非科学的」とされた立ち位置にありました。
古方派の人たちが「陰陽五行説」などの哲学よりも経験を重視した理由。
それは、「非科学的」といわれる漢方医学を「よりわかりやすく伝えて後世に残すため」とも言われています。
中医学・漢方医学・東洋医学の違い
歴史を踏まえて「中医学」「漢方医学」の違い、「東洋医学」について確認してみましょう。
中医学とは
中医学とは中国伝統医学です。
陰陽五行論・気血水・五臓六腑など中国古代の自然哲学に基づいています。
不調の原因や、状態を説明するための理論を重視しています。
体質や、不調の本質を探る弁証
弁証をもとに治療法を決める論治
「弁証論治」によって診断、治療を行います。
「咳にはこの漢方薬」「頭痛にはこの漢方薬」とは決まっておらず、その人の体質や不調の出方から「咳が出る原因」「頭痛の原因」など根本の崩れに対して漢方薬を選ぶのが中医学です。
実際は、中国では「漢方薬」という言葉は使われず「中薬(中成薬)」と呼ばれます。
薬膳もこの考え方と同じように、体質や不調に合わせて食材や調理法を選ぶよ。
「古方派」に対して「後世方派」が引き継いだ考え方や、処方の方法は伝統的な「中医学」とほぼ同じです。
漢方医学とは
漢方医学とは日本伝統医学です。
古方派といわれる漢方医たちが、中国伝統医学をベースに改良を重ねていきました。
形を変えて出来上がった、日本独自の医学なんですね。
中医学が”理論”を重視しているのに対し、漢方医学は”実践から得た経験”を重視しています。
そのため、陰陽五行論・気血水など理論を説明する言葉は中医学に比べて少なめです。
漢方医学は「方証相対」によって診断、治療を行います。
- 実践から得た経験
- 書物に書かれた処方・用法
これらに基づいて漢方薬を処方します。
「病名や症状」と「漢方薬」を結び付けた処方ということですね。
現代の西洋医学のお薬の出し方に近いね。
全部ひっくるめて東洋医学
中国から伝わった医学とオランダ医学と区別するために名付けられたのが「漢方」「蘭方」
「東洋医学」は「西洋医学」と区別するために生まれた言葉です。
「東洋医学」には「中医学」も「漢方医学」も含まれるということですね。
世界的に見ると、アジア圏で行われている伝統医学全般を指すこともあります。
中医学・韓医学・インドのアーユルヴェーダなどですね。
- 陰陽五行論など中医学の理論重視する「中医学」「後世方派」
- 理論よりも実践から得た経験を重視した「漢方医学(古方派)」
- 良いものは幅広く取り込もうという「折衷派」
それぞれ、カテゴリー分けされているように見えます。
しかし、近代科学をベースとしている「西洋医学」に対し、自然哲学をベースにしたスタンスは、「東洋医学」という大きな枠組みの中では共通しています。
中医学・漢方・東洋医学の違い まとめ
中国で生まれ、発展した「中医学」が日本へ渡り、日本独自の発展したものが「漢方医学」
漢方医学の「古方派」に対し、「後世方派」は「中医学」と同じ治療方針であるため、複雑で重なり合う関係性にややこしさを感じてしまうのですね。
中医学は自然哲学や理論を重視しているのに対し、漢方医学は症状に対して経験から得た漢方薬の使い方を重視した医学です。
中医学は「証を診る医学」と呼ばれるのに対し、症状と漢方薬を結びつきにフォーカスした漢方医学は「症状をみる医学」のように感じます。
その背景には、西洋医学に対し「非科学的」とされた中国伝統医学を「よりわかりやすく伝えて日本の後世に残したい」という古方派の人たちが想いも感じるのです。
古い歴史を持つこの医学の形は、決してAIが作ったものではありません。
東洋医学という大きな枠の中で「中医学」も「漢方医学」も、自然哲学を基に多くの医家が長い年月をかけて創りあげた、尊いものなのです。